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かわみなみ の日々の雑感群
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  映画感想「エリックを探して」 2011年02月27日(日)17:00 感想趣味サッカー映画/(ドラマ)
襟立て 前々から書こうと思っていた映画の感想です。
マンチェスター・ユナイテッドを20世紀末に支えた名手にしてとっても変人の選手、背番号7、エリック・カントナが本人役で出ている映画です。
監督は常々重厚な社会派として知られたケン・ローチ。と言ってもミニシアター系の映画を観ない人には有名でもないですね。
これが面白かったんですよ。

カントナを知らない人には普通にイングランドのしょぼくれたオジさんの人生の再構築を試みた姿を描いた作品として、そして更にサッカーファンには演じているカントナを観るという、別の楽しみがあるという作品です。
いやあ、大好きな人が自分に助言をしてくれるなんて、全オタクに通ずる、なんと楽しい妄想なんでしょう。ヾ(^∀^)ノ゛

エリック・カントナについてどういう人物かをここで語るとまた長くなりすぎますから、興味がおありでしたらネットで調べて頂くとして、選手としてあるまじき、野次った相手サポーターの客にドロップキックをかますという、とにかく無茶苦茶な男でした。
しかし問題児と言われながら謎めいた意味深な発言をしたり、プレーでは魅了したりと魅力的な男でした。
私はCMではカントナが芝居するところをいくつか観ているのですが、映画の演技を観るのは初めてで、おお、ちゃんと芝居してるよ、なんて少し驚きました。

以下、かなり長い文章で面積を取るので、文字サイズを小さくして書きました。興味のある人だけ読んで下さい。
ネタバレ内容も含むので、これから観ようという人は読まずに、映画を観た後で読まれるのがよろしいかも…。

ケン・ローチの作品はこれ以前に、イングランドによって虐げられたアイルランドの様子と人々を描いた「麦の穂を揺らす風」を観ているのですが、あまりに悲惨で重すぎる内容の映画でした。
こんな描き手がカントナを使ってどういう映画を作るんだろうと思ったら、イングランドの労働者達の世界で生きる一人の中年の、このままじゃダメだと向上していくプロセスを描いていて、いつもの「もうどうにもできない」感が無いんですね。
最初は漠然とした「何とかしないとなあ」という思いから、実際「何とかしなくちゃ」とあがく姿に変化していきます。

映画の主人公はエリック・ビショップというパニック障害を抱えた郵便配達夫で、この持病もあってか、何だか色々な事を諦めている中年おじさんです。
2度目の妻が置いて出ていった二人のティーンエイジャーの息子と暮らしていますが、この義理の二人の息子は女や仲間を引っ張り込んで好き放題したり、学校をサボって寝てばかり。
手を焼いてはいるんですが、基本的にエリックおじさんは説教などしても無駄なせいか、TVを買い与えて好き勝手にさせて放任しています。
ちゃんと連れ子を食べさせている優しい人と言うよりは、まあもっと子供が小さかった頃はそれなりにエリックに懐いていたんだろうし、大人になっていないのに母親が居なくなったんで出て行けなどと言う薄情な人でもないわけです。

息子達の部屋や共有スペースの台所などが散らかり放題なのに、エリックの部屋だけはベッド周りも小綺麗にされていて、大好きなカントナ&マンUのポスターや写真やマフラーなど飾ってて、ああ、小さな自分の世界を守っているんだなあと思わせる部屋に住んでいます。
エリックには郵便配達夫仲間はいるのですが、どこか心を閉ざして彼らと心からうち解けるということもなく、ただ仕事をそれなりにこなして生きています。
未だに最初の結婚の相手だったリリーが忘れられないクセに、今の自分に自信など全くなくて彼女に会う勇気も無いまま、寂しい思いを長年抱えてきました。

冒頭、パニック障害の発作から交通事故を起こして落ち込むエリックを心配した仲間達の一人が「自分のヒーローを思い浮かべて自己啓発を促す」アドヴァイスを与えて以来、エリックの部屋には時々自分と同名で彼が最も敬愛するサッカー選手、エリック・カントナの幻影が現れて、話を聞いてくれたり助言を与えてくれるようになります。
配達夫エリックのただの妄想です。でも、なんて楽しい妄想。

尊敬し憧れて愛したスーパースターが、何も持たぬ自分の為にだけ姿を現し、自分が欲しい言葉を言ってくれる。それは他人に見えなくても、無上の慰みと楽しみです。
配達夫エリックはカントナにだけは心を開き、自分の胸の内を訥々と語ります。
カントナも心の内を開かします。
自分が一番素晴らしいと思った自身のプレーはゴールでなく美しく繋がったパスであるとか、一番恐ろしかった事は「スタジアム7万人の自分への称賛の声である声援、それが止む時を想像した時」であるとか。

この辺は面白い、と思ったら実際にカントナ自身が映画のスタッフに語った言葉のようで、なるほどなあと心に残りました。
サッカー選手は一般に思われているよりも色々考えているものです。

で、配達夫エリックはカントナの助言を受け入れ、昔の妻リリーに会いに行ったりと次第に生活を見直し始めるんですが、同時に息子がトラブルを抱えていることを知ります。
たちの悪いゴロツキのグループのパシリで曰く付きのヤバイ銃を預かる長男は、弟を傷つけると脅されていて、怯えながらもそんな生活から抜け出せないでいます。
自分の家に違法な物を持ち込まれて激怒したエリックは「何故俺に問題を抱えていた事を黙ってた!?」と息子達を叱りとばすのですが、次男が「だって(僕達に)興味ないでしょう?」と応えた言葉に愕然とします。
それはエリックの暮らし方で、息子達への彼の態度の裏側にあった意識を見抜かれていた事実を突きつけられた瞬間でもありました。
と同時に、こんな心を閉ざしてきた自分のそばに居てくれるのは息子達だけなのだという事も改めて思い知ります。

エリックは息子達の為に初めて本気になって、悪党グループと縁を切らせるべく話をつけに行くのですが、逆に脅され、犬をけしかけられ怯える姿を録画されて、逆らう者への見せしめにYouTubeに晒されてしまいます。
やはり悪党達に素人のやる事は通じなかった、自分は何もできない男のままなのか、と悩み迷うエリックですが…。
カントナは苦しむエリックに助言します。

以下ネタバレ中のネタバレ。読みたい方は要反転。
……という流れなんですが、いやあ、ここまでの「エリックの変化」の流れが無理なく描かれていて最後の意表をつく「作戦」も、ほうほうと納得して観てしまいました。

うーん、YouTubeね、その手があるんだよね、今の時代は。
エジプトのクーデターも、TwitterやFacebookやYouTubeが大活躍したんだよね。なるほどね。

それと、イングランドの労働者達の団結力はとても強いなあと思って、私は映画「リトルダンサー」のスト破りをする父と兄を思い出しました。
自分達には大きな夢も可能性もない、だが息子(弟)にはある、あの子の為に金を工面しなくてはならない、という思いから、信条に反してもスト破りをする父子の姿です。
あの強い絆で結ばれた仲間達に背くのですから大変な葛藤と苦しみだったと思えたのでした。


この映画を見終わってまず感じたのは「スッキリしたぁ!」という気持ち。余韻のある映画は沢山ありますが、まず感じたこの小さな爽快感。
すごく楽しんだという満足感とともに、冬の小雪舞う街角を、軽やかな足取りで帰って行った私でありました。

カントナを知るオールドサッカーファンは是非観てね〜。
イングランドの労働者階級に多少なりとも知識がある人にもお薦めです。

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